姉小路カルチャートーク コラム

平成二十年度会報コラム 姉小路界隈を景観まちづくりの発信源に

京都市立芸術大学 准教授 藤本 英子

写真 藤本先生

一. 出会い

この度、「都市環境デザイン会議(JUDI)・関西」でのフォーラムをきっかけとした、姉小路界隈を考える会の皆さんとの出会いに感謝致します。

以前より、皆さんの活動につきまして断片的に知る中で、自主的に始められた積極的なまちづくりに、近寄り難いほどの高い志を感じておりました。ところが、昨年私どものフォーラムにパネリストとしてお越しいただいた、谷口さんのお宅を訪問し、様々な活動経緯をうかがう中で、この地域のポテンシャルの高さと、皆さんの活動への思いが重なって始めて、現在私たちが目にしている景観が存在することを、あらためて気付いたところです。

「都市環境デザイン会議」は、都市環境デザインに関わる実務者、研究者、企業などからなる全国的な組織です。学会でも特定の業種の集まりでもなく、都市環境デザインを愛し、この分野の発展を願うメンバーで構成されています。間もなく20周年を迎えますが、特に関西での活動が活発で、大阪を中心に研究会やフォーラムを継続的に実施しています。

二. ボトムアップの景観まちづくり

ご承知の通り一昨年施行されました京都市の景観政策を受けて、昨年は京都に関わるメンバーを中心に、その内容の検証から、現場の確認調査、ディスカッションを重ねて参りました。そのとりまとめの場として、十月に市と地域のまちづくりの担い手、住宅メーカーなどのご参加を得て、フォーラムを開催させていただいたところです。この時、問題提起の一つとしてあげたのが「市民参画、ボトムアップの景観づくりは進むのか」という投げかけでした。長年活動を続けておられる皆さんにとっては、YESと自信を持った答えが返ってくることと思いますが、市全体を考えると、大変重要な課題となっています。いくつかの市民支援制度が、市で準備されているとはいっても、何も活動のきっかけの無い地域や、活動の核を持たない地域では、なかなか始めの一歩さえ踏み出せていないのが現状ではないでしょうか。そんな中、皆さん方のような活動の先輩による、体験事例の提示や相互の情報交換が、大変重要であることを、あらためて感じた次第です。

まちづくりの活動は、楽しいことばかりではありません。住民同士の利害が対立したり、個別の問題に反発が出たり、むしろ大変なことが多いのかも知れません。しかし、地域が改善されていく様子が見られたり、他地域の人々から賞賛されたり憧れられたりすることで、自ずと地域の連帯感や誇りが生まれてくることになるようです。そして、益々その地域は内と外から磨かれていくことになるのです。私自身、全国のいくつかの地域での事例を、生で見ていますと、このことを確信しているところです。そして、それは景観など表面に見える部分だけでなく、安心、安全な地域づくりに欠かせない、人々のつながりによる、地域の生活の支えが出来ていくことになっています。そのような地域に住まえることは、なんと幸せなことでしょう。

三. 小さなことから一緒に楽しみながら

京都市には二百余の学区がありますが、一団となって活動をする地域の単位を考えると、さらに多くの地域に分かれることでしょう。そのそれぞれが、自らの景観まちづくり活動を始めることは、考えられるのでしょうか。今までの景観まちづくり活動は、どちらかというとマンション建設問題がきっかけになるなど、負の出来事で始まった場合がほとんどでした。しかし、先ほど述べたような幸せな地域を築く事が出来るとすれば、負の出来事なしに始めるにこしたことはありません。それをどうすればいいのでしょう、おもしろそうであるとか、楽しそうであるとか、心を動かされた時にも、自ら何かを始めようと思うきっかけをつかんでもらえるのではないかと考えます。そのためには、現在既に活動をされているところが、より楽しく、より生き生きとその活動をされていく必要があると感じました。

環境デザインを考える事は、建築の建替えを考える事ではありません。今ある地域の資源をいかに上手に活かし、関係性をつくっていくのかを考えることです。皆さんの地域を訪れて、環境デザイン的視点から、まだまだ地域がよくなる可能性を感じたところです。そして、私たちの発想した小さな提案から、地域の皆さんと一緒に楽しみながら、地域の魅力を高められたら素晴らしいと思い始めました。昨年のフォーラムの最後に、提言を行いましたが、その最後は「…我々も微力ながら尽力する事をここに宣言する」と締めくくっています。

今回、皆さんと地域での活動を共にさせていただくことは、この宣言の一部でもありますし、また、その活動を他地域に発信していくことで、新たな地域での活動の起爆になるのではないかとの思いがあります。景観まちづくりは地域によって、もともと持つポテンシャルも違えば、地域で生活する人々の思いも様々です。そんな中、姉小路での試みが、すぐに他地域の参考になるわけではないでしょう。しかし、様々な地域での取組みに活かすために私は、多くの事例を示す必要があると考えています。私たちが関わらせていただく事で、今までとはまたひと味違う景観まちづくりの事例を、姉小路で示すことは、その一助になり、京都市全体の景観まちづくりへの、情報の発信源になるのではないかと考えています。そして、もちろんそこで生活をされている皆さんには、更なる自信と誇り、そして魅力的な生活空間が広がる事を目指していければと思うところです。

私たち専門家集団は、その結果うまれる皆さんの笑顔に出会って幸せを感じるメンバーです、ボトムアップの活動を発信する発信源として、出来るだけ地域の多くの皆さんと、ご一緒できればと思っています、どうぞよろしくお願い致します。


藤本 英子 (ふじもと ひでこ)

京都市立芸術大学美術学部デザイン科環境デザイン専攻、大学院美術研究科 准教授
株式会社東芝にて大型開発プロジェクト事業の企画調整業務に携わる。その後、公共空間デザイナーとして独立し、2001年より現職。京都市及び大阪市都市計画審議会委員、京都府景観審議会委員、その他自治体で景観アドバイザーを務める。色彩の専門分野を活かし、生活者の視点から景観づくりに関わる。

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