姉小路カルチャートーク 都市計画協会機関誌 新都市 2021年6月 掲載論文 特集◦まちづくり月間

新都市掲載論文 姉小路界隈を考える会 26年間の活動について

姉小路界隈を考える会 事務局長 谷口 親平

写真 事務局長 谷口親平

まえがき

1995年の会設立から26年が経過した。「設立から今日までの活動」と、2015年の国土交通大臣賞「受賞後の6年間の活動」についてそれぞれを報告する。

I. 姉小路界隈とは

姉小路通を軸として、北には京都市のシンボルロードである御池通、南には旧街道の歴史と上品な賑わいを有する三条通、東には趣ある商店の建ち並ぶ商店街である寺町通、西には商業やオフィスが集積した京都の都心軸である烏丸通があり、それらに囲まれた東西700m、南北250mの地域である。京都で最も賑わう四条河原町や四条烏丸からも徒歩圏内に位置し、まさに都心の中心地といえる。

高い建物に囲まれていながら、比較的静かな住環境を合わせもつ、落ち着いた雰囲気の「姉小路盆地」は、文人墨客の看板を掲げる格調ある老舗、伝統ある旅館、洗練された店舗と京町家等の低層住宅が調和したまちなみがあり、空が広くひらけている。この空間資源も姉小路界隈の大きな魅力といえる。

II.設立から今日までの活動

写真1 姉小路盆地は空間資源

写真1 姉小路盆地は空間資源

1. マンション反対が契機

1990年代中頃、三方の山並みに囲まれた京都の美しい景観を損ないかねないマンション計画に対する建設反対運動がきっかけとなった。一旦白紙撤回された「アーバネックス三条」は、京都市景観まちづくりセンター、高田光雄先生、江川直樹先生も加わり、設計コンセプトづくりに立ち戻って、事業者と2年間17回の協議を続けた。その結果、景観・採光・通風・緑化・京町家等の地域環境に配慮し、さらに100年間耐用の高品質の集合住宅を実現した。1階部分には店舗を付置する等、京都市の中高層集合住宅モデルとなり、都市計画学会賞も受賞し、国内外から高く評価されている。こうした当会の様々な活動は、景観法成立のきっかけとなり、京都市都心部の都市政策にも大きな影響を与え、2006年の京都市による新景観政策(景観規制の強化、高さのダウンゾーニング)にもつながっていった。

写真2 集合住宅のモデル「アーバネックス三条」

写真2 集合住宅のモデル「アーバネックス三条」

2. 町式目を継承したまちづくりの理念

式目は武家社会から始まったが、後に町衆の規範へも広がった。江戸時代に原点を有する「町式目」がご町内の井山家に残されている。社会秩序を定めた先人の生活の知恵に学ぼうと、大阪市立大学谷直樹先生指導の勉強会を重ねた。現代にも生かせる条文に新たな条文も追記して、2000年4月に「姉小路界隈町式目(平成版)」を「まちづくりの理念」としてとり決めた。駒札に認めて界隈の3箇所に掲示して、住民がいつでも目にすることができる。

3. 建築協定(商業地域内における)の締結

写真3 姉小路界隈町式目を認める

写真3 姉小路界隈町式目を認める

「姉小路界隈町式目(平成版)」の具現化を目指し、約100軒もの世帯(法人)が実印を押印し、「姉小路界隈地区建築協定」を締結した。100軒もが一挙に意思表示した地域力強さは今だに国内唯一の規模を誇る。協定の主な内容は

  1. 建物の高さは18mまで
  2. 24時間営業のコンビニエンスストアの禁止
  3. 家主が同居しないワンルームマンションを禁止

としている。内原智史氏デザインの「ガス灯」を皆の浄財で建立し、協定締結記念のまちづくりのシンボルとして点火し続けている。

写真4 商業地域で日本最大規模

写真4 商業地域で日本最大規模

4. 26件の街なみ環境整備がきっかけ

姉小路界隈の様々な活動及び建築協定の締結の成果を踏まえ、伝統的な建物と調和した街なみを創造し、地域の魅力や活力を高めることを目的として、国の「街なみ環境整備事業」が京都市(府)で初めて、姉小路界隈にて採択された。この事業は、姉小路らしい地域の景観に調和する建物の修景に対して、国と京都市と所有者が1/3づつ費用を負担する制度である。2004年9月から2014年3月まで、計26件の外観を改修できた。これがきっかけとなって①「姉小路界わい地区地区計画」、②「京都を彩る建物や庭園」制度、③「京町家の保全及び継承」に関する条例、の認定へと発展した。

5. 安心して歩けるバリアフリーな道路にむけて

写真5 商業地域で日本最大規模

写真5 商業地域で日本最大規模

車道幅員を3.8mから3.0mに縮小させ、その分、路側帯を拡幅して歩行空間を拡大させる取組を京都市内で最初に実現した。準備として、地元町内会と京都市がワークショップを重ね、商品置き、立て看板、迷惑駐輪、常習的な荷捌きといった路側帯の個人使用を減少させた。合わせて、歩道のない歩車混合道路における、国際水準の理想値「ゾーン20」を姉小路通にも普及させるべく、警察許可を得て、オリジナル速度標識を12か所に設置している。

写真6 まちなか歩く日(2000年11月より恒例)

写真6 まちなか歩く日(2000年11月より恒例)

次に、京都市の支援を受けて、街灯はもとより、駐車場、店舗、各戸の玄関灯等、灯具数の9割程度を電球色で統一し、夜間のまちなみ感を演出している。また2000年11月以来、姉小路通の一部区間を車両通行止めにした「まちなかを歩く日」のアメニティ活動を継続している。

写真7 チュラロンコン大学(タイ)が姉小路で研修

写真7 チュラロンコン大学(タイ)が姉小路で研修

6. 大学生の受入

京都大学経営管理大学院エリアマネジメント教室等、まちづくり研究を希望する大学院生を毎年受入れている。都市計画や文化人類学まで多岐な分野にわたる。MITの大学院生グループが3年連続で来訪し、姉小路界隈の将来模型を製作したこともあった。京都で博士号を取得したタイ人女性留学生が、帰国後に教員と学生達をつれて再来日し、姉小路で研修活動の数日を過ごしてくれた。都市問題は、古くて新しい世界共通のテーマである。

7. 姉小路行灯会

写真8 地蔵盆前夜に行灯点灯(1997年より復活)

写真8 地蔵盆前夜に行灯点灯(1997年より復活)

京都には、古くから地蔵盆の習わしがあり、お地蔵さんのまわりに集まった思い出は、京都に生まれ育った者にとって夏の原風景の一つである。

「家内健康」「町内安全」の行灯を灯し、お隣近所を気遣い、町内や家庭の幸せを祈念する。半世紀ばかりすたれていたこの習慣を1997年に復活させ、NHKも放映してくれた。地元の御池中学生・もえぎ幼稚園児全員が行灯に絵心を表現してくれる。

8. 京都御池中学生のマーチング

写真9 京都御池中学生のマーチング

写真9 京都御池中学生のマーチング

日本最古の番組小学校であった柳池中学校が整理統廃合になり、新しく京都御池中学校が誕生した。介護施設等公共施設や複数の店舗も併合し、PFI方式で建設されたことでも注目されている。初代長者美里校長は地域と連携した教育にも様々な積極性を発揮された。ブラスバンド部生徒の公道でのマーチング希望の夢をかなえようと尽力なさり、2007年以来、姉小路通でのパレードが恒例となっている。

9. まちづくりの情報発信と記録

写真10 散策マップ(英・韓・中国語等多言語で用意)

写真10 散策マップ(英・韓・中国語等多言語で用意)

  1. 「京の街角姉小路界隈」は1995年12月以来40号まで発刊した。その内容は、講演・シンポジウム・ワークショップ報告、まちづくり関連制度説明、界隈の建物・生業・人物・食べ物紹介、随想、収支報告、マスコミ報道スクラップ等である。
  2. 月刊「姉小路まちづくり通信」は2015年5月以来、欠かすことなく100号まで発刊できた。月毎の意見交換会及び、月例会議案内と報告、地域ニュース等を、界隈の住民、幼稚園児と中学生生徒全員に1,700部を配布している。
  3. ウェブサイトは1999年1月に開設し、まちづくり活動の様子を、いつでも気楽に知ってもらえるように工夫している。こうした記録の積み重ねが地域文化発掘の一助になれば幸いである。優れた専門家のお陰で継続できている。
  4. 国内外ボランティアの応援もあって絵画集、俳句集、散策マップ等を英語・韓国語・中国語等に多言語化してアップしている。http://aneyakouji.jp/guidemap新しく入居・開業を目指す方々、観光・訪問客の方々に、姉小路界隈の魅力を再認識いただき、ファンが増えればと願う。

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III.受賞後の6年間の活動

1. 受賞後の反響

太田国土交通大臣(当時)からの直の表彰に続き、翌々年には京都市長からもトップ賞受賞へと反響した。京都市関係部局の信頼が高まったのか、当会主催の月例会議にも市職員参加が慣例となった。受賞後の官民による最大の取組について以下に報告する。

写真11 意見交換会(6年間で90回開催)

写真11 意見交換会(6年間で90回開催)

2. 地域景観づくり協議会制度の認定

京都市市街地景観整備条例に基づき、新たに建物を建てたり、外観変更しようとする事業者と地域住民が、計画に先だって意見交換をすることができる制度で、京都市内の12地区が認定されている。

この制度導入に出遅れていた当会は、当会独自の工夫を付け足して認定にこぎ着けた。1つ目は意見交換申請書提出に合わせて、チェックシート記入を求め、事業者に「地域が大切にしている方針」をあらかじめ理解いただく。2つ目は意見交換会速報をwebで広報し、すでに90件をアップしている。

写真12 戦前町家を保全・再生(耐震補強も)

写真12 戦前町家を保全・再生(耐震補強も)

3. 意見交換会での成果紹介

「地域が大切にしている方針」にそった意見交換会の成功事例を以下に紹介する。

1. 落ち着いたまちなみを保全・再生

長年にわたって地域のまちなみを形成してきた建物を改修した事例である。戦前以来の旧家を譲り受けた方が、骨組みだけを残して居宅として内外を改築された。耐震補強工事も合わせて実施し、周囲のまちなみに配慮し、その建造物が持つ連続性を損なわないよう普請した好例である。

写真写真13 新築町家(2軒長屋)

写真写真13 新築町家(2軒長屋)

2. 新築町家(2軒長屋)

戦前からの連戸賃貸住宅を建て替えた事例である。新築する場合にも、周囲のまちなみに配慮し、「和風を基調とした伝統的な意匠を取り入れたデザイン」がのぞましい。この要望に対し、家主のみならず、業者も趣旨をよく理解いただいた。特に設計・施工会社の中間的立場でのマネジメントが成功の鍵であったと高く評価している。

写真14 隣接境界の緑化が見事

写真14 隣接境界の緑化が見事

3. 隣接境界部の道路からの見え方

新築の場合、自身の建物が美しくなるのは予想通りであるが、隣接境界部はないがしろにされるケースがある。そのため、設計段階からこのポイントを留意するように求めている。この物件の場合、施主や設計者と何度も意見交換を行い、道路からの見え方に十分な配慮を行って完成させたケースである。界隈での模範例として京都新聞にも報道された。

写真15 路側帯も心地よい

写真15 路側帯も心地よい

4. 心地よい道路の実現

路側帯の迷惑駐輪が原因で悲惨な、死亡事故が姉小路通で過去に発生した。そもそも、公道における一定時間を超える荷さばき、立て看板せり出し、駐輪は違法行為である。看板や屋外広告物は、周囲のまちなみに調和した意匠を要望している。また、建物・敷地入口に設置する照明は、道路側も照らすようにし、軒先には植物の鉢植えを置くなど、花や緑で道行く人をもてなすような気配りを要望している。

写真写真16 品格ある店舗進出が続く

写真写真16 品格ある店舗進出が続く

5. 姉小路ブランド向上につながる店舗誘導

住民の立場からすれば、深夜営業や店舗内外における騒音、従業員の路上駐輪、悪臭等は迷惑行為である。姉小路界隈で従来から商売されている老舗の「姉小路ブランド」を新規進出店舗が低下させるような営業行為も好ましくない。意見交換会を行った多くの店舗がこの趣旨を理解され、姉小路ブランド向上に協力いただき、ハイセンスな店舗が増加傾向にある。

写真写真17 宿泊施設とは協定書締結

写真写真17 宿泊施設とは協定書締結

6. 静かで品格ある環境に貢献

品格と秩序を大事にしているこの地域で、新たに商売を開始する店主には、居住者でなくても町内会加入をお願いしている。また宿泊施設については、駐輪場、出入り車両の駐車スペース確保、合わせて、協定書締結によりトラブル未然防止を求めている。

写真写真18 コインパークのデザイン向上例

写真写真18 コインパークのデザイン向上例

7. コインパークのデザインを工夫

将来計画が定まらない、暫定的土地利用ともいえるコインパークが市内に増加している。看板だけがやたらに目立って、まちなみにそぐわない。当界隈では、精算機、機器設備類、ポール等の色彩統一を要望し、7件のコインパークから合格レベルの協力を得ている。

写真19 新風館が電線地中化スタートに協力

写真19 新風館が電線地中化スタートに協力

4. 電線地中化工事のスタート

当界隈の西玄関口には、大正時代に京都中央電話局が開設され、日本の近代建築の巨匠吉田鉄郎がデザインした建物は、京都市指定・登録文化財第一号になっている。この遺構を利活用して、このほど米ブランドの「エースホテル」がアジア初として誕生した。当会は事業者に強く要望し、関係機関とも共に調整を図り、姉小路通で初となる電線地中化工事のスタートを実現した。事業者の経済力、名だたる老舗の品質と文化、それに住民の生活力を結集させたまちづくりの「目に見える成果」が増えている。

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IV.今後の可能性

京都において「町組」とは、道路をはさんだ両側町が集まって地域的に連合した自治組織である。16世紀初めの原型が明治2(1869)年に改正された。姉小路通の南一筋に平行する三条通を境線に、平均町数を1組あたり26~27町組とし、上京が1~33番組、下京が1~32組の計65の町組が行政基盤となった。この町組に「番組小学校」が誕生し現在の元学区につながっている。戦後の小・中学校制度改革、生徒・学童数の減少等により、統廃合され、現在の通学範囲へと変遷した。しかし、今日においてもこの「元学区」単位の、自治連合会(以下自治連)組織は現役で、体育振興会、社会福祉協議会、消防分団、日赤奉仕団、自主防災会等の活動を続けている。令和の時代となり、今後のまちづくりは、この自治連や町内会活動こそが、まちづくりの主体性と民主性を高める時代への転換ではないかと思う。女性や若人の進出を歓迎し、多様な考え方、価値観を有する多くの町内会長達が、新たに発生する都市問題にも向き合い、古くて新しい「京都の地域社会を実現」してくれればと夢みている。

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