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文化を守り育てる「まちづくり」

地域住民によるまちづくりの事例 ── 美しい街並みを守る

姉小路界隈を考える会事務局長 谷口 親平

どのような町か

姉小路界隈とは、東海道五十三次終点の三条大橋からを徒歩10分、「姉小路通を背骨」として、北端は京都市のシンボルロード「御池通」、南端は近代建築物とお洒落な「三条通」、東端は趣ある商店街「寺町通」、西端は京都の都心軸「烏丸通」(商業やオフィス集積)に囲まれた東西700m、南北200mを示す。

縦横の4鉄道路線各駅から徒歩圏内の利便性と合わせて、夜は静寂な住環境(この地域では祖父母、息子夫婦、孫たち3世代以上のお付き合い)を保ち、伝統ある旅館、洗練された店舗(北大路魯山人や富岡鉄斎等の木彫看板)等、通り景観にもさりげなく文化的雰囲気を感じさせる。

先人達から受け継がれたこのまちの魅力である「文化と暮らしとなりわい」を、より素晴らしいものにして後世に継承したいものである。

背骨である姉小路通には「分譲マンション」は皆無、またこの界隈内には「コンビニエンスストア」が1軒もなく、夜間の静寂さも魅力である。

何よりも、中低層の建物が多く、「姉小路盆地」と呼ぶ無垢な空間資源が界隈のお宝といえる。


この時(2001年)までは、31mの高さに秩序があった。
まちづくりの契機 ── 3棟のマンション建設

1995年頃、1番目のマンション建設が始まろうとした。

公益性の高い土地所有者で、かってはちびっこ広場であったこともあり、直近世帯が計画見直しを求めた。

この物件と柳馬場通りを隔てた真向かいにも、2番目のマンション計画。

京都の両側町としての町内秩序や、元学区単位での自治連合会活動に無知な設計者に対し、地元連合は「東西2分割案模型」を製作し、再三の面会を要望した。

ところが、京都市景観審議委員も兼務していたこの大学教授は、一度の説明責任も果たすことなく、工事だけが強硬開始された。

3番目のマンションは御池通に面し東西86m、高さ45mの巨体で、三方の山並みに囲まれた京都の美しい眺望景観の目隠し屏風ともいうべき巨艦であった。

これらのマンションはいずれも、京都以外の不動産関連業者が関わり、「建て逃げ売り逃げ」が繰返され、京都の空間資源が食い物にされているかの観があった。

それまでの秩序ある31mラインの御池通の高さの揺らぎを、京都市当局は追認の姿勢で、市民の多くがその微力さを思い知らされた。

まちづくりのための取り組み
1)「町式目」の策定 ── 主ルールの再創造

「町式目」は江戸時代からの生活規範で、界隈の井山家所蔵の式目を原典として、先人達の知恵に学ぼうと考え、大阪市立大学谷直樹先生達と勉強会を1年間続けた。

平成12年4月に「姉小路界隈町式目(平成版)」として皆で認め、皆の目に届く、駒札にして界隈3箇所に掲示している。

この基本理念を下敷きにした自主ルールの第1ネットが「姉小路界隈地区建築協定」である。

締結以来、追加加入も含めて、現在80世帯(法人)88区画となり、商業地域での事例としては加入数、加入面積、共に国内最大規模の地域力の強さを誇る。

「深夜営業を避けるためコンビニエンスストア」、「家主が同居していないワンルームマンション」を共に禁止しているが、今まで協定違反は皆無で、17年間が難なく過ごせてこれた。

建築協定に加え、第2ネットとしてより規制力の強い「姉小路界わい地区地区計画」、第3ネットとして、地域の思いを実現させるため「地域景観づくり協議会制度」、第4ネットとして「京町家の保全及び継承に関する条例」の認定を受けた。

町式目から学んだ先人の知恵を継承し再創造させたといえる。

2)街なみ環境整備事業等制度活用と表彰

建築協定の締結の成果を踏まえ、伝統的な建物と調和した街なみ創造と、地域の魅力や活力を高めることを目的に、京都市初の「街なみ環境整備事業」を10年間継続させた。

建物所有者1/3・市1/3・国1/3負担で、26軒が自己負担を惜しまず、平成26年3月までに外観修景を向上させた実績は、地域の美意識の高さを示している。

これは、建築家やデザイナー、工務店、耐震専門家、学識経験者、大学生達の議論の成果ともいえる。

続いて、京都の歴史・文化を象徴する、「市民が残したいと思う京都を彩る建物」制度に当会が推薦し、31件が選定された。

このうち3件は国の登録文化財に指定されたので、「まち歩MAP」を多言語で作成し、まちづくり活動をPRしている

また、地域住民と外国人宿泊客との交流促進や界隈資料の翻訳に協力するなど,地域の活性化に寄与したとして、簡易宿舎では唯一「ゲストハウス・ゆるる」が、名だたる京都の宿泊施設と肩を並べて京都市から表彰されもした。

このように、いくつかのゲストハウスとも地域連携宿泊施設として信頼・協力関係を維持しながら界隈の環境を守っている。

3)地域景観づくり協議会と他地域とのネットワーク形成

地区計画の条例化に先立ち、「まちづくりビジョン」

  1. 静かで落ち着いた住環境を守り育てるまち
  2. お互いに協力しながら、暮らしとなりわいと文化を継承するまち
  3. まちへの気遣いと配慮を共有し、安全な安心して住み続けられるまち

を仕上げた。

ビジョンにある目標に沿って、地域の景観づくりに主体的に取り組む組織を「地域景観づくり協議会」、計画書を「地域景観づくり計画書」として市長が認定する。

現在、京都市内では12地区が認定され、定期的にネットワーク会議を開催しており、まちづくり活動の有効的な組織団体として重要性を高めている。

建築行為や営業開始に先立って「意見交換会」を行うことで、地域が大事にしてきたまちづくりの目標を、前もって共有しようというものである。

良好な環境と通り景観…例えば、飲食店の場合は閉店時間や、従業員の駐輪方法や立看板・のぼり旗の禁止等について取り決めて、保全を目指している。

姉小路界隈では、平成27年3月に事務局開設して以来丸5年が経ち、その間77件の意見交換会を行った。その結果は、http://www.aneyakouji.jp/welcome/result/index.htmlに報告している。

4)地蔵盆等を活用したエリアマネジメント

京都には古くから地蔵盆の慣わしがあり、ご近所が寄りあって夏のひとときを過ごしたものである。

日常のご近所のつながりは、地域生活の基本である。

しかしながら、まちの担い手が高齢化と共に減少し、住民同士の付き合いにも希薄化の危惧を感じる。

旧(在来)住民の減少と高齢化は一本調子で、こうした状況下にあっては、マンション等の新住民も巻き込んでのまちづくり活動が不可欠であると思う。

向こう三軒両隣の原単位から、町内、学区、校区へ呼び掛け、地蔵盆時に開催する「姉小路行灯会」には、地元住民、京都御池中学校、中京もえぎ幼稚園、地元企業、行政のご協力を賜り、この時ばかりは1000人以上がこぞって関わりあえる、そんなイベントを25年継続できた。

「① 街なみ環境整備事業」「② 市民が残したい建物」「③ 国登録文化財」「④ 地域連携宿泊施設」の成果は、 http://aneyakouji.jp/vr/walkmap.html に示している。

加えて、月例会議や定期的な情報発信活動、内外からの見学者・研究生も受け入れている。

活動資金は、界隈受益者からの年次会費と、支援者からのカンパで賄っている。

持続可能なまちづくりに向けた課題

1)御池通のスカイライン統一は京都の都市格

「姉小路盆地」から見ると、ヨーロッパアルプスのように東西に長く連続する北壁様の建物が、北山の眺望景観を阻害している。

そもそも御池通は、75年前の終戦間際に南側に強制拡幅され、姉小路界隈の土地所有者の多くが土地提供に協力して、50m幅員を実現させた経緯がある。

東端の鴨川が行き止まりなので、同規模の五条通や堀川通と比べて大型貨物車両等の通過交通が少なく、その分、人や環境にやさしい幹線街路である。


31mの水平線の破壊が始まる

また、祇園祭等の祝祭空間であり、京都市役所前であるからには、パリのシャンゼリゼやニューヨークの五番街のように、京都の顔になる道路環境整備に、今後も磨きがかかるであろう。

だが、それには、高さの統一も重要事項である。

御池通りの既存不適格建物の「水平線」について、京都市は市民に、将来的には「31mの高さに統一する」という明確な決意を約束しているのを、忘れてはならない。

最近、京都市新景観政策委員会は、「高さ規制云々と曖昧な動き」を見せる。

「御池通は31mの規制を触らない」という言質を市幹部から引き出している(京都新聞2019年6月19日他)が、 11の景観づくり協議会が意見書で示したように、なし崩し的緩和は、「50年先、100年先の京都の都市計画」のために百害あって一利なしと考えるべきである。

2)住み続けるための税制改革提言

今から25年前は、マンション建設で沸いていた。

市内に人口を呼び戻すためには大型マンションが有効だとして、京都市は建設に前向きであった。

京都では明治5年、全国に先駆け番組小学校を開校したが、下京区の開智小学校児童数のピークは、昭和25年であった。

この当時はまだ、市内にマンションは1棟もなかったはずである。

その後、児童数は減少の一途で、平成3年にはとうとう閉校した。

果たして、大型マンションは人口増加に有効であったのだろうか。

中京区の小規模住宅用地の、固定資産税評価額54年間分を右に図示する。

東京オリンピック以来、昭和の時代はおだやかな上昇率であったが、平成時代になると変動が異常である。

こうした異常な税額上昇は、固定資産税や相続税を負担しきれない従前からの家系を追い払い、住み続けることの叶わぬ、持続不可能なまちへと追いやる恐れがある。

オフィスビルやマンション用地の不足を引き起こしている、最近の不動産取引やホテル建設等も、地価上昇に拍車をかけているように思う。

新たな「令和の時代」においては、税負担を安定させる政策を真剣に考え、職住が共存でき、世界が憧れる歴史・文化・観光・教育の平和なまち京都を継承したいものである。

*この文章は、「京都から考える 都市文化政策とまちづくり ─ 伝統と革新の共存」(ミネルヴァ書房刊 ISBN9784623087686)に掲載された文の原文に一部加筆した、全文です。

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